2029年ナガサキ市ニシキ2丁目

クソの様な労働環境で働く労働者が居なくなって20年経った。
ナガサキ市ニシキ二丁目に住むふろむだ君は今中学3年生である。
ふろむだ君は来年の秋には立派な起業家として独立する。

民主党政権が崩壊してから長い混乱の末に現在の自由主義政権が誕生した。自分が生まれた頃に「正義の革命」が起きたそうだが、父も母も黙して語らない。でも、それによって正しい社会になったそうだ。少なくとも学校のではそう教えられている。

ふろむだ君は朝早く起きて研修先の工場に出勤する。旋盤の技能研修の為だ。旋盤はもう2年は修行を積んだ。いまは見事0.1ミクロン単位の加工が出来る様になった。

選別は小学生の時から始まる。一部の私立学校に通う資産家階級と幼い頃から優秀な児童は進学組のカリキュラムを受ける事になる。しかし大勢の一般的な中学生は自立する為に何らかの技術を学ぶ事になる。中学を卒業すると皆が「起業家」であり「企業家」にる。
殆どの人が「個人企業」だ。
「個人企業」は「大手企業」から仕事を請け負う。旋盤加工、プログラミング、営業、経理、システム管理、研究開発、品質管理、全てが「個人企業」として仕事をする。であるから、この国には「労働者」が極端に少ない。極めて能力の高い管理職のみだ。今や公務員でさえ例外では無い。
この「個人企業」は「コンサルティング会社」と契約を結び管理されている。個人企業はシステム化されて「コンサルティング会社」は必要に応じて発注する。極めて効率化されたシステムだ。

中学の授業の半分は「企業での研修」に読替られる。適性に応じてそれぞれの企業のそれぞれのスキルを得る事になる。ふろむだ君は手先の器用さと几帳面な性格から旋盤工の道を選ぶ事になった。中学2年の頃には2級技能士の資格を得た。誰もが何らかの資格を16歳までには取得する。

ふろむだ君も来年からは立派な「起業家」であり「企業家」だ。今朝メールでふろむだ君の会社名の通知来た。「ながさ029ふろむだ03製造」と言う。

今、国をあげての「大開墾運動」が盛んだ。世界各国に日本企業の「開墾地」が広がる。日本国内に開墾する森が無い日本は世界に開墾を始めた。それは軋轢を得たが力で押し通すより他なかった。「新しい大航海時代」の幕開けだった。植民地ならぬ「開墾地」を世界に得る事で日本の強欲な領主の企業界は活路を見いだした。
強力な軍事力を必要となり日本は軍需産業で沸き立つ。よって技能を得るない、エリート候補生にもなれない中学生は船で世界を駆け回る事になる。大砲を積んだ船で。

「産業を作り出し、労働環境を改善し、生活を豊かにする仕事の主役は、政府でも政治家でも役人でもなく、民間人であるあなたなのですから。」
ふろむだ君が企業研修の初日に教わった言葉である。自分はもっともっといろんな素材でどんな形状でももっと精密に削れるようになりたい。そうすれば家族ももっと豊かになれると信じている。
上の世代は「お母さんみたいに優しい政府が全てなんとかしてくれる。」と甘えたお陰で自分たちの世代は膨大な赤字を背負う、それも「開墾地経営」で解消されつつある。

自宅はにしき2丁目の急な坂の中腹にある。ずいぶん昔は個人の住宅が建ち並んで小綺麗だったと聞く。が今はテント村である。技能を身につける事も軍人にもエリートになれなかった人たちが暮らしている。彼らはセイフティーネットで暮らしている。食料の配給が為されているそうだ。ふろむだ君も幼い頃はそのテント村にいた。父親のプログラミング請負個人企業が取引先に損失を与えたので収入は途絶えるばかりか賠償の為全財産を失った。そんな父と母を支える為に10歳の頃から旋盤の私塾に通って技術を得た。テント村の不平ばかり言い立てる住民を軽蔑していた。父も母も2次3次の請負仕事で必死に働き学資を稼いでくれた。それでやっと技能を得て独立開業出来る事になった。

今はなんとか屋根があるアパートに入る事になった。中学を出て「起業家」であり「企業家」を確固たるものとして早く両親にも米の飯と医療を受けれる様にしたいと心に誓うふろむだ君だ。

「産業を作り出し、労働環境を改善し、生活を豊かにする仕事の主役は、政府でも政治家でも役人でもなく、民間人であるあなたなのです。」